北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
-いい夫婦の日-
 ホテルのラウンジが見合いの場として活用されていることは薄々知っていたけど、これほどまでとは思わなかった。
 場違い感に苛まれながらも、累は冷めたコーヒーを少しずつ時間をかけて飲んでいる。
 結婚したいって考えてるひと、こんなに集まるものなのか。
 前後左右をそんな2人組に囲まれてしまって、オセロだったらひっくり返るところだ。
 凛乃が来るまで時間をつぶそうとラウンジに入ったら、「お待ち合わせですか」と聞かれて、ある意味そうだと思ってうなずいた。
 だから、ずっとひとりでコーヒーを飲んでいる累は、待ち合わせをすっぽかされたように見えるだろう。
 累はスマートフォン上端の数字を見やり、さっき時間を確かめてから2分しか経ってないことに肩を落とした。
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