北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 凛乃は手にしていたスマートフォンを、すでにコタツのうえにあった累のそれに並べ、累の頭の横に腰を下ろした。
 苦しい夢を見た原因はわかっている。ゆうべ遅くに来た、母親からの帰省要請メールのせいだ。
 電話なら、切るか切るよと脅しをかけるだけでいい。適当に相槌だけで受け流すこともできる。
 でも帰省すれば、距離の助けはない。面と向かって「結婚しないの?」「いいひといないの?」攻撃をかわすのは至難の業だ。
 いまのわたしには累さんがいるし、プロポーズしてくれるって言われてる。でも。
 累本人を差し置いて、親に決定事項として報告するのは気が進まない。
 回避案として、“職場のOKが出たら”新幹線のチケットを買う、と、約束してしまった。
 元旦には家族が揃うものである、という思い込みの圧力に、抗えなかった。
「ねぇ累さん、どうしようか」
 すやすやと眠る累は当然、返事をしない。
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