北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「別に。ちょっと疲れてるだけ」
 画面越しに見透かされてしまうほど落ち込んで見えるとしたら、ついさっきまでいっしょにいた凛乃ならとっくに気づいていただろう。
 普段どおりにふるまっているつもりだった自分が、少し恥ずかしい。
「しっかり休んでるか? おまえは貯めこんじゃうタイプだからな。しんどかったら、寝てればよかったのに」
「毎年クリスマスにはリアルタイムで顔見るってきかないくせに」
「だってクリスマスは家族と過ごすもんだろ。でもおまえが大事な用があるって断ってきたら、おれはいつでもガマンするよ」
 その苦笑いの含むところを察して、累はふてくされたように腕を組んだ。
 幻に終わった“夜景の見えるレストランでのプロポーズ”作戦。
 敗因は、思い立ったタイミングの遅さだ。目星をつけたどの店も、ことごとく予約で埋まっていた。
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