北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 キャンセル待ちに賭けてはみたけど、目に見えないものに阻まれているかのように、何事もなくクリスマス当日を迎えた。
 それっぽいことを何度も言っているからこそ、プロポーズは絵に描いたような正しいシチュエーションで言いたい。
 気負いが空回りした。近所の小さなフレンチレストランにすらフラれて入った行きつけのラーメン屋では、言い訳すら吐けなかった。
「あのな、賛成しないとは思うんだけどな」
 探るような言造の声に、うつむいていた顔を上げる。
「その家売って、こっちに来るって選択肢も思い出してほしいんだよ。ひとりでいてさびしくないかとか思っちまうの。義母さんも、しるこもいない、その広い家にさ」
「……」
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