北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 しんと静まり返った空席に、つるにこがくんくんと鼻を寄せた。
「いまのパートナーと、その息子」
 ゆっくり目だけ出した凛乃に、とりあえず説明しておく。
「なんか、ごめんね」
 先に謝られてしまったから、累は浮いていた腰を下ろし、凛乃のこめかみに、つつくだけのキスをした。
 手を下ろした凛乃の顔はまだ赤かったけれど、口唇には笑みが蘇る。
「最後、リンリン呼びになってた」
「馴れ馴れしい男でごめん」
「ううん。楽しかった。なんか、会話が反抗期の息子と父親って感じで。離れて暮らしてたからかな、間延びした思春期?」
 だから気が進まなかったんだ。
 累は、肩越しに毛づくろいを始めたつるにこの丸い背中を、するりと撫でた。
< 165 / 317 >

この作品をシェア

pagetop