北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「だからリクエストして。そのとおりにプロポーズする」
「う……うぇっ?」
 涙を飲んで、ヘンな声が出る。
「リクエス、ト?」
「うん。ことばとか、シチュエーションとか、指輪も。ぜったいそれが正解だし」
 そっと目を開ける。
 累はしょんぼりとうつむいたまま、爪の先でテーブルをひっかくようにもじもじしていた。
 凍っていた身体が一瞬で溶けて、体温がぐんと上昇する。
「……ん……ふふ、ふふふふ」
 嗚咽の代わりにこみあげてきた笑いに、累が顔を上げた。
「えっ、泣いてた? ごめん、どうして?」
「理由を聞くまえに謝るんだね」
「だって、どう考えてもおれがなにかしたからだと思って」
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