北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「このままふつうに帰るのは、もったいない気がするなぁ。限界まで浸りきりたいっていうか、スーツの累さんももう少し見ていたいし」
「ホントに好きだね」
「そうだよ大好き! 好きな累さんに好きなスーツの掛け算だし!」
「……そういうことは外で言わないで」
 累を見上げると、感情を押し殺そうとするように、口元がもぞもぞ動いていた。今日はヒールが高いから、顔がいつもより近い。
「大きな声では言わないけど、累さんにだけ聞こえるくらいのは許して?」
「手をつなぐのでぎりぎり」
「じゃあ外で累さんのこと好きだなーって盛り上がっちゃってそれを表現したいときは、どうすればいいの?」
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