北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 凛乃の父は、娘とヴァージンロードを歩くのを楽しみにしていたのだけど、姉のときは神前式で叶えられず、ひっそりと肩を落としていたらしい。
 それを知った凛乃が、ほんの数メートルでもと、式場側と案を練った。それが、わずか4卓から成る列席者テーブルの手前まで敷かれた、緋毛氈のヴァージンロードだ。
 その演出を聞いた言造まで「おれもルイルイといっしょにヴァージンロードを歩きたい」と言い出したのだ。
 もちろん速攻で却下だ。新郎がその父とヴァージンロードを歩くなんて、聞いたことがない。
 でもあと少しで式が始まるというこのときまで、言造はその思いつきに心を残していた。
 累はちらりと言造の顔を盗み見る。
 脳裏に、ふと、少しよれて流れたような文字が蘇ってきた。
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