北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
-8月30日-
 昨日の面接に続いて今日も昼過ぎから出かけていた凛乃が帰ってきたのは、夕方だった。
 歩き出すと足にまとわりついてくるつるにこを抱き上げて出迎えると、凛乃は朝にはなかった大きなクーラーバッグを手にしていた。
「おかえり」
「ただいまです。ただいまー」
 後半は、つるにこに向かってだ。鼻先に指を差し出して、つるにこが匂いを嗅ぎに顔を寄せたところをひと撫でした。
 数時間ぶりに会ったというのに、あっさりとキッチンへ向かう凛乃についていくと、遠ざけるように「つるにこと遊んでてください」と言われた。
 それから凛乃がいつもより長い時間キッチンにこもって出してくれた、オニオンスープとささみのサラダ、ベーコン入りラタトゥイユ。
 また食べたいと言ったことがあるものが並ぶ食卓について、凛乃は特に解説しなかった。
 その企みを自分から確かめるのも憚られて、累はニコニコ顔の凛乃に見守られながら静かにそれを完食した。
「今日はデザートもありますよ」
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