北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「あえて言うなら」
「あえて言うなら?」
「歳の数だけ」
「歳の数だけ?」
「キス」
 凛乃のほうをうかがうと、照れ笑いを押し殺していた。
 最近見せるようになったその表情が、心底好きだ。
「それならほしい」
「……節分みたい」
 言いながらも凛乃は腰を浮かせて、累のほうに移動してきた。
 脚のあいだに膝立ちで入り、累の両肩をがしっとつかむ。キスというより、襟首を掴まれてぶん投げられそうな気迫だ。
「手は動かさないでくださいね」
 牽制されて、累は凛乃のほうに伸ばしかけていた手をしかたなくソファの座面に置いた。
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