北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「ああっ、すごい解放感! 一仕事終えたって感じ」
「じゃあ、あしたどっか行く? 水族館とか」
「え」
 ふりかえった拍子に、手がスタンド部分にぶつかった。
「おっ」
 累が逆サイドから押さえてくれて、スタンドミラーはかろうじて床に落ちずに済んだ。
 ふたりして、ほっと息を吐く。
「ありがとうございました」
「そんなに驚いた?」
「んー、そうですね、これまでって出かけても、なんだかんだ用事をこなすための業務の一環って感じで」
 互いの気持ちを確かめ合ってからも、目的もなく遊びに行くという提案は、累からも凛乃からも出なかった。
 それは主に、求職中の凛乃が家政婦業中に恋人らしい雰囲気を避けていたせいだ。
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