北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 そういえば、小野里邸の名義を凛乃に変えようとしたことがあった。
 そばにいてもらうためだったから、いっしょに暮らせているいま、急いで話を進める必要はなくなった。
 でも凛乃が望めば、いまでもいつでも譲る気でいる。
 与えすぎと釘を刺されたから、今夜は言わないでおくけど。
 累は赤信号で停まったタイミングで凛乃のほうを向いた。
「着てるところ、見たいなと思って」
 余計な情報をそぎ落とした単純な思いつきのところだけ、ぼそりとつぶやいてみた。
 勢いよくこちらを向いた凛乃の髪が、頬を滑る。
「そっか、成人式のだから、お母さんが着てるの、写真でしか見てないんだ」
「うん」
「そっかぁ」
 凛乃はあごを上げると、声を落として独り言ちる。
「あの柄も結婚式くらい華やかな場ならいけるかな。振袖だけど」
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