独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
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須和は葵の姿を見送った後、どこかぼんやりとした気持ちで車を走らせる。

(葵ちゃんが加瀬に知らせてくれなかったら、もしかしたら本当に会えなくなってかもしれない)

この半年……須和は何度も店に行ってしまいそうだった。
何故だと考えた時、天馬堂に行きたいとか、葵が心配だとかそういうのではなくて。
ただ自分が葵に会いたくて仕方がないことに気づいた。
それが出来ないから、時々加瀬に店に行かせてそれとなく情報を聞き出したりして……。

(いい大人がみっともない……これが恋というのなら、かなり厄介だ)

今まで言い寄られるままに付き合った女性はいる。
でも、正直どうでもよかった。自分から好きになるなんてないと思っていた。

それが今はどうだろう。

ずっと葵のことが頭の片隅にあって、葵の喜ぶことを考えて、葵の笑顔に喜んで……。
それが親や兄弟が持つ愛情だと同種だと思っていた。
なのに、自分が葵に会っていない間に他の男に取られてしまうのではないかと、気が気じゃなかった。


『社長、天馬堂の葵さんがご挨拶にいらっしゃいました』

加瀬から連絡が来たのはクリスマスの昼。その日須和はイタリアのホテルにいたが、
簡単に事情を聴くなり、予定されていた晩餐会を即欠席して日本行きの飛行機に飛び乗っていた。

そんな自分の行動に、自分自身が一番驚いていたのは言うまでもない。

「……可愛かったな」

車から降りる直前に見せた葵の顔を思い浮かべて、須和はポツリと呟いた。
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