独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
葵は大きく目を見開き、須和を見つめた。
とても衝撃を受けている様子で、口をわずかに開けたまま言葉を発しない。

「葵……」

須和はそっと葵の髪を梳き、彼女の答えを促す。

「やっと私、日本に帰れるの……?」

「え?」

葵が振り絞っていった言葉は、須和の予想を大きく覆した。
葵は涙を流しながら、須和に微笑みかける。

「柾さんから見て、私、一人前の職人になれた?」

「もちろん。もう葵は立派な職人だよ」

地位も名誉も信頼も手に入れた葵は、誰が見ても自立した女性に映っている。

「よかった。私は柾さんに認めてもらえるまで日本に帰れないって思ってたの。
だって、私の夢は三年前から柾さんに相応しい女性になることだったから」

「え……?」

葵の言葉に、須和の心は揺れた。
てっきり葵の夢は、和菓子職人として天馬堂を広めることばかりだと思っていたからだ。

「僕に相応しいって……」

「私、柾さんに認めてもらって、どうしても一緒にいたかった。
でも……それは私が言ってできることじゃなかったでしょ?」

確かにあの時、須和は言ったのだ。

『じゃあ決まり。僕と結婚するまでにちゃんと職人になるんだよ?
物凄い人になって、日本に帰ってきて』

『ちゃんと夢を叶えてもらわないと、結婚した時に後悔しちゃうかも。そう思わない?』


本音ではあったが、葵にシンガポールに行くことを決心させるために言った言葉だ。
葵は律義にその言葉通りに行動し、一緒に暮らすことを夢見ていたという。


あれだけ異国の地で頑張っていたのは、僕と一緒にいることを夢見てーー?
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