独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
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「天馬様、ご無沙汰してます」

「加瀬さん、お忙しい中お時間を取って頂きありがとうございます」

加瀬とSUWAビルのエントランスで落ち合うなり、葵は小さく頭を下げた。
黒髪で色白、眼鏡をかけている加瀬は見るからにインテリな雰囲気が漂っていて、葵はいつも緊張してしまう。

「大変残念です、天馬堂がなくなってしまうなんて……社長はご存知ないんですよね?」

「はい。須和さんは長い間とても良くしてくださっていたので、
一度お会いしてお伝えするのが筋なんですが……」

葵はそこまで言って、その続きをどう伝えようか悩む。
すると加瀬は何かを察したように、薄く微笑んだ。

「大丈夫です。社長もちょうど海外出張中なのでもともと会うことは難しかったと思いますから」

「……そうですか、なら……」

(よかった、のかな)

葵はもう一度会釈をし、加瀬に微笑んだ。

「またどこかでお店が再開できるように、がんばっていきます。では、お元気で……」

「はい、またどこかで」

葵は加瀬の笑顔を見て、チクリと胸が痛む。

(これで終わったんだ。何もかも……)

「……」

加瀬は葵を見送ったあと、すぐにスマホであるところに連絡を取る。

「社長、おはようございます」

『どうしたんだ? 今、シャワー中なんだけど』

「今、天馬様のお嬢さんがオフィスまでいらっしゃいました」

『えっ、なんで葵ちゃんが……』

「それが……」

加瀬はいつもの要領で、詳しく葵の様子を須和に伝える。

『今すぐ日本に戻るよ』

「あっ、ちょ」

須和はそう言うと、乱暴に受話器を置いた。

「社長は本当に葵さんのことが大好きですね」

海外にいるというのに、
今すぐ日本に戻ろうとする須和の情熱さに、やれやれと加瀬は笑ったのだった。
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