エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 とはいえ、イレギュラーな出勤の多い貴利くんのことだ。予定なんてあってないようなものなので、もしかしたら今日もまだ仕事をしているのかもしれない。


「待ってみようかな」


 私は扉の前に膝を抱えて座った。


「さむ~」


 それにしても一月の夜は冷える。コートにマフラー、手袋にニット帽。かなり着こんできたけどそれでも寒い。

 ぶるぶると震えながら夜空を見上げているとふと一ヶ月前のことを思い出した。


 “結婚はやめよう”


 一方的にそう突き付けられたのがショックで貴利くんのアパートを飛び出した。とぼとぼと歩きながら何となく視界に入った空にも、今日のように星が一つだけ輝いていた。

 本当なら今頃は両家の顔合わせがすんで、入籍日や式の日取りも具体的に決まっていたはずなのに――。


「千菜」


 不意に聞こえた低い声にハッとなり、私は慌てて立ち上がる。


「貴利くん」


 一ヶ月振りに会う貴利くんが懐かしくて、思わず彼の胸に飛び込みたくなった。自然と足が一歩だけ前に出てしまったけれど静かに戻す。

 ほんの一か月前なら何も考えずに抱き着けていたのに。結婚がなくなった今、貴利くんは私を受け止めてはくれないような気がしたらこわくなった。

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