別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
***

「また会えて嬉しいです」

光沢のある細身のブラックスーツをカッコよく着こなした彼から漂うのは、溢れんばかりの気品。

目の前の席に座る渚さんがふわりと笑い私を真っ直ぐに見つめてくる。あれから連絡を取るようになり、渚さんの方から何度か食事に誘われた。

何回もお断りするのも気が引けて今日一緒に夕飯を食べることになったのだが、連れて来てもらった場所がラグジュアリー感に溢れていて少々緊張している。

ダマスク織のグレーの壁にロイヤルブルーのフカフカな絨毯。その上にはカブリオールレッグのホワイトのテーブルと椅子があって爽やかな印象の個室だ。飾られている絵画も家具も高級感に溢れている。

ここはこの辺りで予約が取りづらいことで有名な高級フレンチレストランだ。著名人がお忍びで訪れることでも知られている。店に入った途端、支配人らしき人がすぐに渚さんのもとへ挨拶にきたことから察するに、渚さんはここの上客に違いない。

運ばれてきたシャンパンで乾杯をすると、すぐにアミューズが運ばれてきた。ホワイトアスパラのムースと甘エビのマリネ、季節野菜のエチュベと肉厚ホタテのポワレ。

「とっても素敵ですね」

ひとつのお皿の上に温と冷の料理が芸術的とも言える盛り付けで並んでいて、そのセンスと鮮やかな色どりに心が高揚していく。
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