別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
***

「最近、凛子ちゃんいきいきしてるね。なんかいいことあった?」

「え?」

仕事場でお客様の予約ケーキを仕上げていると、岬オーナーが声をかけてきた。

〝なんかいいことがあったか〟と聞かれ頭に浮かんだのは、渚さんの顔だ。

「凛子ちゃんは分かりやすいな」

私の反応を見てなにかを悟ったらしい岬オーナーがクスッと笑う。

「最近の凛子ちゃんの作品は前にも増して心を奪われるくらいに素晴らしい。きっとその心境の変化がいい効果をもたらしているんだろうね。クリエイターにはいいスパイスになるから」

「そうですかね」

「ああ。お幸せにね」

岬オーナーは鋭い。すべてお見通しだ。頬を熱くし動揺する私の前で岬オーナーが悪戯っぽく笑い、目の前の席へと腰を下ろし仕事を始めた。

確かに岬オーナーの言うように渚さんの存在はいいスパイスになっている。渚さんの仕事に対する姿勢や人柄は尊敬に値するし、私ももっと頑張らなくては!と奮起するようになった。

お互いに仕事が忙しくなかなか会えなくても毎日のように連絡をくれるし、会えたときには私をさりげなく気遣ってくれたり、深い愛情で包み込みお姫様扱いしてくれる。渚さんの優しさに触れて自分が女であることを認識できるし、少しだけ自信が持てるようになったのも事実だ。

彼の存在はとても大きい。ふと、お店のカレンダーが目に入った。視線の先には一週間後の土曜日の日にちがある。

私の誕生日だ。その日は仕事が休みで夕方近くまで美紅と過ごし、夜は渚さんと過ごすことになっている。

恋人と誕生日を過ごすのはいつぶりだろうか。期待に胸を膨らませつつ、そわそわと落ち着かない気持ちが同居している。そんななか誕生日までの日を過ごした。
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