別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
今更、渚さんに湊斗のことを報告するつもりはない。きっと渚さんは今頃、お父さんが勧める女性と結婚して家庭を築いているに違いないもの。

湊斗の手を引き、足早にその場を離れた。

大丈夫。莉奈さんの前でちゃんと否定したもの。莉奈さんだって不確かなこの状況で事を大きくするつもりはないだろう。

「凛子? さっきの方って……もしかして」

私の焦っている様子を見て母はなんとなく気づいたようだ。両親には父親のことを一切話してはいなかった。私が真相を話せば、きっと父も自分を責めるのではないかと思ったから。

「気にしなくて大丈夫だから」

それは自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。妙な胸騒ぎを抑えようと、深呼吸をしてギュッと繋いだ手を握り直す。なにも知らない湊斗の無垢な笑顔だけがこのときの唯一の救いだった。

そんな出来事から数週間が過ぎた。私の生活はなにも変わらない。莉奈さんからもあれから連絡はこないし、このまま平穏な日々が過ごせそうな予感がしていた。
< 84 / 111 >

この作品をシェア

pagetop