蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



「・・・此処」


青木さんの運転で着いた場所は
橘病院の夜間通用口だった


和哉さんの先導で飛鳥さんと中へと入る


スマートフォンの電源は切っているし
ピアスは重厚な箱に二つ並べて入れられた


“過眠症”を疑って診察を受けに来たにしては大袈裟だけれど


私の手を引いてくれる飛鳥さんの手は
いつもより力が入っていて
とてもじゃないけれど聞ける雰囲気ではない


土曜日は休診だからか
夜間通用口から入った三人は

誰とすれ違うこともなく

二階の院長室へと着いた途端


「蓮ちゃんお久しぶり」


看護師長の岡部さんは到着を知っていたかのように扉を開けた


「お、久しぶりで、す?」


「フフフ」


「よぉ、久しぶりだな」


広い院長室のソファには
白衣を着た橘院長が座っていた


「今日はよろしくお願いします」


隣で頭を下げた飛鳥さんに合わせて
慌てて頭を下げた


「過眠症か〜」


「あ、たぶん?」


まるちぃの言葉だけを信じたら
当てはまるような気がしたのに


「医者じゃないのに診断したのか」


クククと笑う院長と岡部さんを見て


「確かに・・・」


お気楽な自分がちょっぴり恥ずかしくなった


「とりあえず血液と尿検査ね」


岡部さんに促されて院長室を出た

長い廊下を歩きながら


「そんなに眠いの?」


「そうなんです。学校も遅刻するのに
お昼寝もして、早寝もしちゃうくらいに」


「フフ、それは眠そうね」


岡部さんの優しい声に
少し不安な気分が紛れた


採血と採尿を済ませると


「先に院長室へ帰っててね」


そう言われて頷くと待っていてくれた和哉さんと長い廊下を戻った









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