蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜
実りの秋




院長室に戻ると
院長と飛鳥さんはなにやら盛り上がっていた


「蓮ちゃんお帰り」


ソファの隣に座ると正面で院長がタブレットを操作し始めた


「眠い以外に何か身体でおかしなところは?」


「え・・・と、特には」


「ご飯は?いつもと同じ量か?」


「いつも通りです」


「そうか・・・」


タブレットを見つめたままの院長は


「飛鳥さん、ちょっと席を外して貰えるかな」


「あ、はい」


急に不安になって視線を合わせた私を


「大丈夫、外に居るからね」


飛鳥さんはそっと頭を撫でて立ち上がった


パタンと扉が閉まる音を聞いたところで


「ここからが本題」


院長がタブレットから視線を上げた


「はい」


「前回の生理はいつだった?」


「・・・え?・・・と」


思いもよらない質問に一瞬固まるものの


前回を思い出すように頭を巡らせる


確か・・・


「新学期が始まって直ぐだったので
九月三日頃だったと・・・っ」


言い始めて、気付く


ここ数ヶ月は大体月初に正確な周期できていたのに


既に十月が終わろうとしている



もしかして・・・っ

目を見開いた私を見て


「尿検査のデータが出たよ」


そう言ってタブレットを操作する院長から


「おめでとう」


ひと言・・・診断された






・・・・・・え




『おめでとう』?




導き出される答えはひとつなのに



身体中から力が奪われたように
身じろぎひとつできない






・・・・・・もしかして


・・・そうなの?





呼吸が



どんどん浅くなり




優しく笑う院長の顔が景色とともにズレた







「蓮ちゃんっ」








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