蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜






懐かしい匂いに重い目蓋を開くと



「蓮」



間近に大ちゃんの顔があった

その向こう側に白い天井
その脇に吊り下げられた点滴バッグ

頭を動かして周りを見ると


「もしかして入院してる?」


他人事みたいに聞いていた


「あぁ、院長から連絡があって
診察中に蓮が倒れたって言うから」


あ・・・そうだ
あの時、院長から過眠症の原因を聞かされていて

動揺した私は

また、息を吐き過ぎた


冷静に思い出していると


「蓮」


大ちゃんの甘くて低い声が引き戻した


「あのね」


「うん」


「過眠症、じゃなかった」


「・・・」


「・・・あの、ね?」


「あぁ」


勇気を出して告げようとしたのに

考えている言葉は口から出てはくれなくて


その言葉を覆うように


不安な気持ちが広がってくる


私も大ちゃんも
まだ高校生で

“いつか”は欲しいけれど
それは“今”じゃないかもしれない


実感はまだ何もないけれど

もしかしたら諦めなきゃいけないかもしれない


不安な気持ちは既に後ろ向きで


目の前にいる大ちゃんの揺れる瞳に気付きながらも


告げられないでいた








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