蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


「おはよう」


元気よく挨拶をしてくれる岡部さんの声で目覚める


「お寝坊さんね」


「・・・おはようございます」


背中に負担をかけないように
ゆっくりと起き上がると


「ブッ」


岡部さんは思い切り吹き出した


「ん?」


「あれだけ泣いたんだもんね」


そう言ってクスクス笑い続ける岡部さんの真相は

貸してくれた手鏡で判明した


「・・・っ」


恐ろしく目蓋が腫れた自分の顔に息を飲む


・・・てことは


夜中に大ちゃんに会ったときは
既にこの腫れぼったい顔だったのだろうか

月明かりを背に受けた大ちゃんと違って
私の顔はハッキリ見えたと思う


「・・・っ」


そのことを思い出すと同時
口元を覆った手に触れた唇に

昨日の大ちゃんとのキスが蘇った


「アララ?顔が真っ赤だけど
はい、お熱測ってね」


毎朝の検温に冷やかしが加わった


口がパクパク動くだけで
岡部さんへの否定の言葉は出てこなくて


その間に岡部さんは次の病室へと行ってしまった


「・・・フゥ」


大袈裟に息を吐き出して
体温計を脇に挟む


窓の外に広がる青空を確認して
大ちゃんと繋いだ右手に視線を落とした

あれから・・・
大ちゃんはいつ帰ったんだろう

ウッカリ寝落ちした自分に
ひとつため息を吐いた


「で、何度だった?」


スライド扉が開いて岡部さんが帰ってきた


「36度4分でした」


「は〜い、じゃあリハビリの時は声かけるね」


「よろしくお願いします」


岡部さんがいなくなると途端に寂しくなるこの病室

広くて何でもあるけれど
壁が白過ぎて落ち着かない


顔を洗うためにベッドから降りると


もう一度扉が開いた

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