蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



コンコン
「大和〜、蓮ちゃ〜ん」


扉をノックする飛鳥さんの声が聞こえる


「チッ」


途端に不機嫌になった大ちゃんは


「蓮、紅茶どうぞ」


飛鳥さんを無視してティーカップをテーブルに置いた


その間も呼びかけは聴こえてきて


「大ちゃん」


顔を見ると「ハァ」とため息を吐いた後で


テーブル上のリモコンを扉へと向けた


ピピと電子音が響いて
それと同時に飛鳥さんが入ってきた


「あら、お茶してたのね」


チラッと大ちゃんを見たけれど
答えそうにない雰囲気で


「はい」と私が返事をした


「瑞歩もお茶したいって向こうで
待ってるんだけど、次にするわ」


「あ、ごめんなさい」


「いいのよ、次は一緒ね」


「はい」


それだけで部屋を出て行った


飛鳥さんと話すのは私ばかりで
大ちゃんはその間、ずっと私の髪を指に巻いて遊んでいるようだった


「大ちゃん、飛鳥さんと話さないの?」


「毎日会ってんだ、特にないな」


「でも」


「思春期の息子と母親が仲良しって
蓮の基準は面白いね?」


「話さないだけで仲悪い訳じゃないんだよね?」


「うん」


「じゃあ、そんなものだと思うことにする」


「良かった、蓮が物分かりがよくて」


微笑む大ちゃんにひとつ頷いた


「それ飲んだらお庭に出てみよう」


「・・・うん」


嫌な思い出を塗り替えるって言ってたから
お庭も避けては通れない場所


ゆっくり紅茶を飲むと


大ちゃんは
「此処からね」と六年前にお庭へ出た大きな窓を開けた





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