蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



あの頃と同じ窓の下には四段の階段

その一番上に


「新しいの揃えたよ」


大ちゃんと色違いのサンダル


「大ちゃん、足も大きい」


サンダルが大人用と子供用くらい差がある


「二十八だからそうでもないよ」


「え?大きいよ?」


「蓮が小さすぎるの」


「また、子供扱いしたー」


頬を膨らませて大ちゃんを見上げると
首を傾けた大ちゃんが近づいて
チュッとリップ音を立てた


「・・・っ」


「蓮が可愛いのが悪い」


不意打ちのキスに真っ赤になった私を
可愛いと言いながら手を引く大ちゃん


「車椅子持って来ようか?」


「ううん、ゆっくり歩いてみたい」


「じゃあ手を繋ごう」


大ちゃんの大きな手が私の手と絡む
その手を見つめて勇気を貰う


「蓮、大丈夫だ」


何度も何度も声をかけて励ましてくれるのに

コタの小屋があった場所へと向かう足は
後もう少しというところで動かなくなった


「蓮」


「・・・」


分かってる・・・分かってるけど
あの場所はその後を変えた運命のような所で

そんな躊躇う私を

フワリと抱き上げた大ちゃんは


「強制連行な」


スタスタと歩き始めた


「だ、いちゃん。重いから」


「いーや、軽過ぎだ」


「大ちゃんっ」


「どうした?蓮」


全く聞いてくれる素振りもない
そんなやり取りの間に着いてしまった


クゥーーーーン


「へ?」


甘い鳴き声が聞こえて顔を向けた


「コタっ」


バゥッ


真っ白なシェパードが千切れんばかりに尻尾を振っていた


「ほら」と抱っこから下ろされると
近づいてきたコタを抱きしめる


「コタ」


名前を呼ぶたびに甘く鳴くコタ
六年ぶりの再会なのに私のことを覚えていてくれた

それにテンションが上がって

此処が辛い場所だったことも
足が動かなかったことも忘れていた





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