蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


瑞歩さんの会社に行くならと
白い襟と袖口に花の刺繍が施された浅緑色のワンピースを着ることにした


祖母の形見のハンドバッグを持って
ソファに座って待っている大ちゃんの元へと向かう


「お待たせ」


背後から声をかけると、振り返って破顔した


「それも可愛いね」


「でしょ?襟の刺繍に一目惚れ」


襟元を触れば


「ボタン全部外したい」


大ちゃんは襟元から裾まで続くボタンのことを言うと同時に
さっきまでの笑顔から妖艶な笑みに変わった


「・・・や、ダメなんだからね」


「クク」


喉を鳴らして笑われたことで
揶揄われていたんだって気付く


抗議しようとしたタイミングを崩すように立ち上がった大ちゃんは


「行こう」


手を差し出してくるから


「・・・うん」


揶揄われるだけで終わってしまった


外では和哉さんがドアを開けて待っていてくれて

乗り込むとすぐ走り出した


「瑞歩さんの会社って・・・」


「あぁ、行けば分かるよ」


車の中では説明してくれないと分かって諦めた


「今日はこのまま帰らないつもり」


「・・・え?」


「色々、行きたい所があるからね
最後はそのまま泊まろうと思ってる」


やっぱり肝心のところは説明して貰えなさそうで


でも・・・


大ちゃんに任せておけば大丈夫って
思えるから深くは聞かない


「そうだ」


「ん?」


「和哉が俺と蓮の付き人に戻ったからね」


「そうなの?」


「あぁ」


「飛鳥さんは?」


「お袋は親父がどうとでもするさ」


「・・・」


飛鳥さんの『不本意』発言を聞いたのは入院中だったけれど

和哉さん・・・いいのかな?

そんなことを思っていた私に


「着きました」


助手席に乗っていた和哉さんから声がかかった


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