蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


「若はMKも郡夜も継がれる跡継ぎです
ですから、これまで数多くの縁談が持ち込まれています」


そこまで聞いてハッとする

その変化に気づいたのか
綾瀬さんは


「もちろん、全てお断りしています」
と頬を緩めた


「ここからが本題です
これ以上の縁談を断って他を牽制する意味でも
若の婚約を発表したいと思います」


「蓮ちゃんじゃなきゃ結婚しないと
大和は言ってるが蓮ちゃんも同じかな?」


瑞歩さんの問いかけに


「はい」


すんなりと出た返事に迷いはなかった


「じゃあ、通達ということでいいな」


瑞歩さんが次に視線を移したのは大ちゃんで


「構いません」


大ちゃんは背筋を伸ばして固い返事をした



「一ノ組の親父へ話を繋げて挨拶へも行くことになる
蓮ちゃんもその日から郡夜の若姐になる」


真っ暗だと思っていた未来が動きだしたと感じた途端に

一気に流れ始めた


少し不安だけれど、手を繋いでいてくれる大ちゃんの手を離さないと決めたから不安はない


「じゃあ親父、今日は留守にする」


そう声色を変えた大ちゃんは


「・・・は?」


固まる瑞歩さんを放置で


「蓮、行こう」


スタスタと手を引いて社長室を出ようとするから

慌てて


「お邪魔しました」
とだけ振り返りながら言えば


クスクス笑った綾瀬さんが手を振ってくれた



「和哉」


「承知」


「・・・?」


和哉さんの名前を呼んだだけの大ちゃんは
なんでもないみたいに私の肩を抱いていて

今度は地下の駐車場まで降りた


そこにはいつ移動したのか
乗ってきた車が止まっていた


地下に駐車場があるんだ・・・なんて
呑気なことを思っていた私は


大ちゃんが言った『和哉』の意味が
私を睨んだ受付嬢の処分だったとは


知らなかった









< 75 / 160 >

この作品をシェア

pagetop