蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



美味しい匂いはお預けのまま
車はどんどん山深く入って


「到着」


着いたのは前に来たことのある
ダム湖畔にある大ちゃん家の別荘だった


運転手の青木さんと和哉さんが
荷物を運び込む間

大ちゃんと私はダム湖に面したバルコニーへと出ていた


「久しぶりね」


「俺もだよ?」


「そうなの?」


「蓮が居ないと楽しくないからね」


「ごめ、待っててくれてありがとう」

謝りかけて思い直した私を見て
頭を撫でてくれた大ちゃん


「若、用意できました」


和哉さんがリビングの窓から声を掛けてくれた


「あぁ」


大ちゃんに手を引かれて部屋に戻る


ダイニングテーブルの上には
美味しい匂いの正体が並んでいた


「わぁ、お腹ぺこぺこ」


「皆んなで食べよう」


四人で向かい合って座って
和哉さんが買ってくれた
松花堂弁当の蓋を開けた


「美味しそう」


「沢山食べないと大きくなれないよ?」


「え、モォーーーー、大ちゃん!」


「ハイハイ、牛な」


くだらないやり取りをしながら
四人で囲む食卓も楽しくて

いつもより沢山胃袋に詰め込んだ


「もう動けない」


沢山食べたのに


「デザートありますよ」


和哉さんのひと言で胃に隙間ができた気がした


「ベリーのタルトです」


「食べるっ」


クスクスと笑う大ちゃんに頬を膨らませて見せたけれど
タルトと紅茶の前で頬が緩んだ


「蓮、今夜は此処に泊まるんだ」


「うん」


泊まるところが知っている所で良かったとホッとした


「六月から東白へ通うための
予習をしようと思ってる」


「そうなの?」


「あぁ」


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


微笑む大ちゃんを見ながら
甘酸っぱいタルトを頬張った







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