極上御曹司はかりそめ妻を縛りたい~契約を破ったら即離婚~
「……契約、違反……です」

ぺたりと座り込み、まだ呼吸もままならないまま彼を見上げた。
眼鏡越しに目のあった彼がその縁を赤く染め、すっ、と私から視線を逸らす。

「……なら、破棄するか?」

つらそうに絞り出されたその問いに、答えられなかった。
答えることが――できなかった。

「……契約が終わればフランスへでもどこでも行けばいい。
でもそれまでは、澪音は……俺のもの、だ」

ぽそりと淋しそうに漏らし、私を置いて彼は部屋の中へ戻っていく。
ひとりになり、膝を抱えて丸くなった。

「……わかんない」

一言、破棄すると言えば済んだのだ。
彼からの事由での契約破棄、私には違約金も発生しないどころか報酬は満額払われる。
そのお金で裕一郎さんとフランスへ渡ればいい。

「なに、やってるんだろ、私」

そろそろと壁を伝って立ち上がる。
自分でも、どうしてその一言が言えなかったのかわからない。

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