大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
日差しの強い今日は、浅縹(あさはなだ)の生地に双葉葵が施された単衣(ひとえ)に決め、崩れないように帯をきつめに締めてもらった。


「郁子さまはなんでもお似合いですね。敏正さまが一目惚れされたのもうなずけます」


そうじゃないのよ。
私は啖呵を切ったところを見られたの。

そう白状したいのに、春江さんは私が吉原に売られそうになったのを知らないので口を閉ざしておいた。


休日の敏正さんはいつも着流し姿で、今日は紺青色の二筋縞を着ている。

いつもの三つ揃え姿は凛々しくて、毎朝見るたびに頬が赤らんでしまうのだけど、少し着崩した着物姿の敏正さんは妙な色気が漂っていて、隣に並ぶのが恥ずかしいくらいだ。


人力車を走らせて日本橋まで行くと、彼は「行こうか」と私の背中を押した。

今日は日曜のせいか家族連れの客が多く、百貨店はたいそうにぎわっている。

女学生の頃は日本橋より銀座に遊びに行く機会が多かった。

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