大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
「そんなに見られると照れるじゃないか」

「お、起きていらっしゃったんですか?」

「あぁ。郁子を見ていたのを知られるのが気まずくて、とっさに目を閉じた。でも、郁子も同じだからおあいこだ」


私を見ていた? 


「なあ、もう一回言って」
「な、なにをでしょう」
「旦那さまって」


意外なおねだりに、頬が上気する。


「いや、それは……」


聞かれていないと思ったから言えたのであって。

首を横に振ると、強く抱きしめられて逃げられなくなった。


「頼むよ」


耳元でささやかれると、体がビクッと震える。

甘えた声を出す彼に驚きはしたけれど、妻になれたからこそこの声を聞けるのかなと思えばうれしくもある。


「だ、旦那さま」


思いきって小声で口にすると、背中に回った手に力がこもった。


「かわいい奥さま。これからよろしく」
「……はい」


面映ゆくてたまらない。
けれども、幸せな時間だった。
< 138 / 338 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop