大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
「はい。とても久しぶりなので、銀座に行こうと」
「それはいいね。楽しんでおいで」


彼は私に十圓も握らせる。


「こんなにいりません! あんぱんいくつ買えるんですか?」

「ははっ。郁子はすぐあんぱんだ。なんでも好きなものを買えばいいのに。困ってはいけないから持っていきなさい。そうだ。銀座に行くなら、千歳の和菓子を買ってきてくれないか? 春江が好きだし」


春江さんを気遣う彼は優しい。


「承知しました」


私はありがたく受け取っておくことにした。

玄関まで敏正さんを見送りに出ると、一橋さんが車で迎えに来ている。
今日は得意先に直行するのだとか。


「郁子さん、すっかり奥さまですね」

「な、なにをおっしゃって……」

「孝義さん、郁子をからかうのはよしてください。おろおろした顔を見られるのは俺だけの特権です」


恥ずかしい言葉を吐いているのに、敏正さんは平然とした顔をしている。


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