大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
農村で農業にいそしんでいるという和男さんにとって、遊女をひと晩囲うお金は、とてつもなく高いもののはず。

同じような生活をしていた菊乃さんが吉原に売られたくらいなのだから、おそらく生活が困窮しているのに。

それでも敏正さんに借金を申し出た和男さんは、心の底から菊乃さんを愛している。


「何年かかってもいいさ。たみが戻ってくるまでに返せれば」


たみというのは、菊乃さんの本名だろう。

優しい口調で語りかける和男さんを前に、とうとう菊乃さんの目からはらはらと涙がこぼれ始めた。


「菊乃。和男くんは本気だぞ? お前も腹をくくれ。死ぬ勇気などいらぬ。生きる勇気を持て」

「津田さま……」

「今まで菊乃には散々助けられた。ありがとう」


敏正さんが言うと、菊乃さんの表情がほころんだ。


「こんなところまで奥方を連れてこられるとは、津田さまの愛にあっぱれでござりんす」


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