大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
再び廓言葉に戻った菊乃さんは、私に視線を向けて続ける。


「津田さまは、ほんにつまらん男。わちきの誘惑になびかない男なんて初めてでありんした。でも、津田さまがわちきの気持ちを大切にしてくださらなければ、わちきの心はとうに壊れていたでありんしょう」


笑顔の菊乃さんは凛としていてとてつもなく美しい。

おそらく彼女は私に、敏正さんは自分を抱こうとしなかったと伝えたいのだとわかった。


「どうかお許しておくんなし」


菊乃さんに謝られるようなことはなにもない。

そもそも彼女は、政府高官のわがままに困惑している敏正さんを助けてくれただけだ。


「いえ。わかっております。主人を助けてくださり、ありがとうございました」


私が頭を下げると、彼女は泣きそうな、それでいてうれしそうな複雑な笑みを浮かべる。


「菊乃、元気で。いつかまた会えるといいね。今宵はふたりで過ごしなさい」


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