大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
突然襖が開き、山高帽を目深に被り大きすぎる背広を纏った男性が、一橋さんとともに入ってきた。
その男性が山高帽を取ると、菊乃さんが驚愕の表情を浮かべる。
「死ぬなんて許さんぞ。いつまでもお前を待っている。だから……」
菊乃さんのそばまで歩み寄った男は、彼女の両肩に手を置き訴える。
敏正さんはそれを見て、お付の新造や禿に退出を促した。
「なんで? 和男(かずお)さんがどうしてここにいるの?」
すっかり廓言葉が飛んでいる菊乃さんは激しく動揺し、目を丸くする。
彼は菊乃さんの想い人なのだ。
「今日の座敷は、彼が買ったんだ。俺はその橋渡しをしただけ」
敏正さんが告げると、菊乃さんは首を横に振っている。
「買えるわけがないでしょう? この料理代だけでも払えやしないわ」
「津田さまに貸していただいた」
「なんて馬鹿なことを。返済に何年かかると……」