大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】


今は敏正さんの顔を見たくない。

だましたってなに? どうしてはっきり言えないの? やましいから? 

でも……明日まで待ってくれって、明日なにがあるの?

落成式できっとなにかが起こるのだ。


「郁子。俺の部屋の布団で寝なさい。俺は下で寝る。泣かせてごめん」


彼は結局、核心に触れることなく一階に下りていってしまった。


それから私はひとしきり泣いた。

ようやく心を通い合わせられたと思っていたのに。夫婦としての楽しい未来を思い描いていたというのに。

私は、敏正さんに裏切られたの?

父の話が正しいならば、敏正さんは私との結婚を利用して父をだましたということになる。

でも、いったいなにをだましたというの?


「敏正さん……」


小声で彼の名を口にすると、胸が締めつけられるように痛む。


吉原に身を沈めようとしていた私を救ってくれた彼には頭が上がらない。

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