大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
「父が話していたんだが……会社の頂点に立つと、間違った道に走りそうになったときに、容赦なく叱ってくれる存在が必要らしい。父にとって母はそうした存在なのだ。きっと郁子もそうなるだろう」


そういえば、彼にとって春江さんがそうだったような。


「そんな過大評価をされても困ります。私は紡績についての知識などこれっぽっちもありませんから」


慌てて伝えると、彼は口の端を上げる。


「母はわけあって、女学校に通ったことすらない」
「えっ?」


華族の出身ではなかったの?


「無論、紡績についてなどまったく無知のはず。だが、たとえ政府の高官と対等に話ができる父相手でも、間違いをズバリ指摘するような人なんだ。郁子は先ほど『私を馬鹿にされているのですか?』と言ったが、津田紡績の跡取りの俺にそんな言葉を吐くのはお前くらいしか思いつかない」


私は思わず手で口を押さえた。

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