五年越しの、君にキス。


どうして伊祥は、そんな嘘をついてまで…… グループ企業に不利益になることがわかっていて、もう一度私を選んでくれたんだろう。

今回は、老舗茶屋の娘という私の立場が少しは伊祥のためになる。そう思っていたから、どこかで安心していた。

伊祥の強引さと優しさに甘えて、彼との婚約を受け入れた。

ずっと何も知らないまま、伊祥のそばにいられたらよかったのに。

やっぱり、私は伊祥の隣に釣り合わない。

それは、五年前から充分によくわかっていた。だから、伊祥から離れたのに。

伊祥の優しい嘘に騙されて、私は知らない間にあのときと同じ間違いを繰り返してしまっている。

胸を締め付けるこの苦しさを、私はよく知っている。だけど、二度目は一度目よりもずっと苦しい。

だって今の私は、五年前以上に伊祥のことを愛してる。

窓際にかけられた、分厚い布地のカーテンをギュッとつかむ。

どうやって気持ちを落ち着かせればいいのかわからなくて、カーテンをつかんだまま、ずるずると床に沈むように蹲み込んだ。


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