五年越しの、君にキス。
五年分、たりてない


五年前、大学卒業が目前に迫った頃。私は伊祥に彼の友人主催の飲み会に誘われた。

場所は伊祥の友人の父親が経営しているバーだと言うから、その日は普段より服装にもメイクにも気を遣った。

連れて行かれたのはダーツの楽しめる大人な雰囲気のバーだった。

初めは緊張したけれど、どこかの企業のご子息だという伊祥の友達は気さくな人ばかりで。お酒の効果もあってか、すぐに私の緊張は解けた。

ずっと私のそばにいた伊祥がトイレで席を外したタイミングで、彼の友達のひとりが私に話しかけてきた。


「梨良ちゃんは、どこまで本気で伊祥と付き合ってるの?」

「どういう意味ですか?」

「あー、ごめん。俺、余計なこと言ったかも……これまで伊祥と付き合ってた子って、みんなあいつの事情を知ったうえで割り切ってって感じだったからてっきり……」

そう尋ねてきた彼には、おそらく悪意なんてなかったんだろう。私が顔を強張らせたのを見て、気まずそうに目をそらした。

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