五年越しの、君にキス。

「そうですか……淋しくなります」

お店のご主人と奥さんは、私の親世代よりもずっと年上だけれど、まだまだお元気そうなのに。

沈んだ声を出す私の肩を、奥さんが励ますようにぽんっと叩く。

「柳屋茶園さんとの店としてのお付き合いはなくなってしまうけれど、これからは個人で利用させてもらいたいと思ってるから。私も主人も、柳屋茶園さんの煎茶が大好きなの」

「ありがとうございます」

奥さんの言葉に、少しだけ元気をもらう。

それから奥さんと少し世間話をし、閉店日にもう一度顔を出すことをお約束して、団子屋さんを後にした。

奥さんの話によると、団子屋さんの跡地には、どこかの大きな企業グループがプロデュースする、和風カフェが入るらしい。

有名な建築デザイナーや、ブランド食器の会社もそこにコラボすることが既に決まっているらしく……

ここの屋上日本庭園の新しい目玉になるような店の構想が立てられているようだ。

団子屋さんの奥さんは、「そんな構想があるんだから、うちの店なんて今じゃなくてもいずれ立ち退きになってたはずよ」と、なかなか笑えない冗談を言っていた。

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