五年越しの、君にキス。


「お昼は食べるものある?」

「今は食欲ないけど、家の前まで送ってくれた秘書に、スポーツドリンクとか飲むゼリーとか持たされたから、とりあえず平気」

「そう……」

伊祥のことが気になるけれど、それ以上かける言葉が見つからない。

「もしかして、心配してくれてる?」

黙り込んでいると、伊祥が掠れた声でそう尋ねてきた。

「少しくらいは……」

それに、朝の時点で伊祥の体調不良に気付けなかった反省もある。

ぼそりと答えると、伊祥が少し笑ったような気がした。

「じゃぁ、仕事から帰ってきたらお粥作って。卵が入ってるやつ」

「いいけど……」

「ありがとう。じゃぁ、夜にはそれ食べられるように、今からおとなしく寝とく」

「うん……」

「梨良、仕事終わったら早く帰ってきて」

甘えるような伊祥の声に、少し苦しげな吐息が混じる。

「わかった。終わったらすぐ帰るから。ちゃんと寝て」

「うん。ごめん、ほんとにもう寝る」

「おやすみ」

私の言葉を待ってから、通話が切れる。

伊祥の弱々しい声が気になったけれど、午後の仕事は休めない。

昼休憩が終わって仕事に戻っても、伊祥のことがずっと気がかりだった。


< 37 / 125 >

この作品をシェア

pagetop