キミだけのヒーロー
相合傘
サユリと付き合って1ヶ月が過ぎた。

オレ達の交際は順調で、オレは相変わらず彼女に夢中だった。


といっても、平日はゆっくり会える時間はなかった。

なぜならオレには毎日のようにサッカー部の練習があるから。

いつも部活の終わる時間に待ち合わせして、オレがサユリを家まで送り届ける。

そんなことがオレ達の日課であり、たった1時間しか会えなくても貴重なデートだった。





その日、いつものように部活を終えたオレは、サユリとの待ち合わせ場所であるファーストフード店へ急いでいた。


その時。

ポッ……

ポツ……

頭に水滴が落ちてきたと思ったら、それはすぐに大量の雨へと変わった。


「うわぁああああ」


オレは慌てて鞄の中から折り畳み傘を取り出した。


持ってて良かった。


気象庁が梅雨入り宣言をしたのは先週のこと。

今朝は晴れていたのだが、心配性の母親がオレに傘を持たせたのだった。


「オカン、サンキュー」


なんて呟きながら、パシャパシャと道路に溜まった水をはじかせながら、オレは先を急ぐ。

だけど、ふいに足が止まった。


すでに通り過ぎた数メートル手前のある光景が目に留まったからだった。


どうしようかと一瞬悩みながらも、オレは来た道をほんの少し戻る。


そこは古い雑居ビルの入り口だった……。
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