ドキドキするだけの恋なんて

上原さんとの 約束は 金曜日。


待ち合わせた 新宿駅の カフェに

私が着くと 上原さんは もう 来ていた。


「お待たせして すみません。」

「ううん。俺 仕事から 直帰したから。早く着いたんだ。」


合コンから まもなく 2ヵ月。


記憶していた 上原さんより 親しみを 感じたのは

私が 上原さんに 心を開いたから?


「行こうか?」

上原さんに 促されて 歩き出して。


駅を出ると 上原さんは タクシー乗場に 向かった。


「表参道の駅まで お願いします。」

行先を告げる 上原さんに


「電車でも よかったのに?」

私は 小声で 言ってみる。


上原さんは すごく優しい目で 微笑んで。


「この時間の 山手線は 混むから。」

と 同じくらい 小声で 答えてくれた。


合コンの時から 思っていたけど。

上原さんは ゆっくり 丁寧に話す。


話し方に 圧迫感がないから。

私は 安心して 上原さんと 話すことができた。



タクシーを降りて 少し歩いて。

細い路地沿いの 隠れ家みたいな お店の前。


立ち止った 上原さんは 私に 笑顔で頷いた。



「わぁ!本当に すごい野菜。」

最初に 運ばれてきた 焼野菜のサラダは 

色とりどりの野菜が 溢れるほど 盛ってあって。


「でしょう?こういうお店って 男同士じゃ 来れないから。」

上原さんは 照れた顔で 私を見た。


「そうですね…」

ゆったりと 配置された テーブルは

カップルと 女性同士の お客さんばかり。


何故 上原さんが こういうお店を 知っているのか

ちょっと 気になった時 上原さんは 言った。


「野菜料理のお店って 全然 知らなくて。会社の女の子に 聞いて。ここを 薦められたんだ。」


仄暗い照明の下でも 気付かれてしまうほど

私の頬は ポッと紅くなって。


そんな私を見て 上原さんは 優しく微笑んだ。



上原さんは タケルよりも ずっと 大人だった。








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