翠玉の監察医 癒えない時間
「何故、何故そのようなことを仰るのですか!?」

蘭の目から何故か涙がこぼれ落ちる。蘭はスマホを耳に当てたまま歩き出す。その胸元でエメラルドのブローチが光った。

「私は、ようやくわかったのです。あなたを失いたくない理由が。あなたがエメラルドのブローチをくれた理由が、わかったのです。あなたがいなければ、私は幸せになどなれません」

「ダメだ。ダメなんだ。……やはり、俺は君をアメリカに連れてくるべきじゃなかった。俺は三国家の人間であることに変わりはない。あの家の血が流れている。君を結局不幸にしてしまった」

「そんなことありません!だから、星夜さんの今いる場所を教えてください。もうこれ以上大切な人を失いたくないのです!あなたが「逃げろ」と仰るならば、あなたを連れて逃げます。あなたが戦うなら、私も戦います。私は、あなたのことをーーー」

その刹那、銃声がスマホの向こうから鳴り響く。そして星夜の声が聞こえなくなった。それが何を意味するか、蘭にはもうわかっている。
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