Romantic Mistake!
桜庭さんはため息をつき、耳を抑えながら答える。
「そんなの、僕がひとりひとりに謝罪をすれば済む話だろう」
「それが体裁が悪いと言っているのです! そろそろ身を固めて取引先へアピールすべきだと役員たちが勧めた婚約だったのに、それが、パーティー目前で女に逃げられたなんて! なんのアピールですかって話ですよ!」
小野さんたらどんどん口が悪くなっていく。すごく怒っているようだ。でも、私も彼の言う通りだと思う。桜庭さんが肩身の狭い思いをしながらひとりひとりに謝るなんてしてほしくない。
「そんなこと言ったってしかたないだろう。僕にはもう婚約者はいないんだから」
「このパーティーだけでもなんとかして開催するのです! 桃香さんのお父様には私から断りを入れておきますので、別の女性を代役に立てましょう。幸い、まだ誰にもお相手を紹介していないんですから」
桜庭さんは眉をひそめた。
「婚約者の代役? そんな失礼な話があるか」
「でも!」
「だいたい、パーティーまであと一時間もない。そんな女性がどこにいる?」
「いるじゃないですかここに! ひとり!」
小野さんは、置物のように座っている私をビシッと指差した。