アオハルの続きは、大人のキスから


 ギリッと歯ぎしりをして顔を歪める久遠に、俊作はいつも通りクールな表情で小鈴が乗ったタクシーを見続けている。

「……残念ながら、姑息な手を使わねば彼女は手に入らない。それがわかっていたからだ」

 俊作は降りしきる雨を見上げながら、どこか他人事のように続けた。

「あの子の見つめる景色には、誰かがいる。そのことに気がついていた」

「俊作……」

「どれほど想いをぶつけても、兄的存在としてしか見てもらえない。それも、過去の男に心を囚われている……そんな小鈴を手に入れるには、この手しかなかった」

 俊作は、いつもとにかく冷静で周りとは一線を引くような男だった。だからといって非情ではなく優しさを持ち合わせていて、人間ができている。そう思っていた。

 そんな俊作がこんな手を使ってまで手に入れたいと思った女が、小鈴だったのだろう。

 らしくはないが、なりふり構っていられない気持ちは理解できる。

 だが、今回のことは許せない。小鈴のことを考えたら、できないはずだ。その悪魔の一手に手を出してしまった俊作だが、小鈴が苦しむこともわかっていただろう。

 それでも、彼女がほしかった。そういうことなのだろう。

「なぁ、俊作。そんな手を使って小鈴を手に入れたとしても、幸せは続かないぞ」

「ああ、わかっている。いや、わかっていた……かな。それでも、私は小鈴がほしかった」

 傘を持つ俊作の手が震えている。力強く握りしめすぎていて、爪で肌を傷つけそうなほどだ。力を入れていた手がふと弱まり、俊作は久遠に背を向けた。

「小鈴が泣いていた。私の責任だから、今更追いかけることはできない。だが、蘭なら小鈴を笑顔にすることができるだろう?」

「俊作」

「行ってやってくれ。小鈴が待っているのは、お前だ」


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