箱崎桃にはヒミツがある
「ありがとうございました」
と診察台を下りる頃には、桃はすべての苦しみから解き放たれたような顔をしていた。
今日で診察は終わりだと言われたからだ。
「先生、尾藤さん、いろいろご迷惑おかけしまして。
ありがとうございました」
とにこやかに言って、
「……別人のように愛想がいいな」
と貢に言われる。
「俺の治療は痛くないだろう。
何故、そんなに嫌がる」
「いや、なんて言いますか。
歯医者と聞くだけで、条件反射というか。
もう行きたくないあまりに、自分が歯医者になろうかと思うくらい苦手なんですよ」
と言って、貢に冷静に、
「自分じゃ治療できんだろうが」
と言われてしまったが。