箱崎桃にはヒミツがある




「ありがとうございました」
と診察台を下りる頃には、桃はすべての苦しみから解き放たれたような顔をしていた。

 今日で診察は終わりだと言われたからだ。

「先生、尾藤さん、いろいろご迷惑おかけしまして。
 ありがとうございました」
とにこやかに言って、

「……別人のように愛想がいいな」
と貢に言われる。

「俺の治療は痛くないだろう。
 何故、そんなに嫌がる」

「いや、なんて言いますか。
 歯医者と聞くだけで、条件反射というか。

 もう行きたくないあまりに、自分が歯医者になろうかと思うくらい苦手なんですよ」
と言って、貢に冷静に、

「自分じゃ治療できんだろうが」
と言われてしまったが。
< 13 / 139 >

この作品をシェア

pagetop