箱崎桃にはヒミツがある



 たぶん、今までにもすれ違っていたのだと思うのだが。

 一度、知り合いだと認識したら、目につくな……。

 その日の夕方、あのイタリアンの店の近くで、桃は貢を見つけてしまった。

 大型書店でなにやら小難しげな本を読んでいる。

 医学書のようだ。

 桃が行きたい棚は貢の向こうにあった。

 後ろをするっと通っていくべきか。

 反対側から回るべきか。

 さりげなく挨拶をして行くべきか。

 迷っているうちに、貢が顔を上げてしまった。

「……ああ、お前か」
と言う。

 はい、お前です。

 これでしばらく会わない風に別れたのに、わずか数時間で会ってしまってスミマセン……と思いながら、

「こ、こんばんは」
と桃は愛想笑いを押し上げた。
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