箱崎桃にはヒミツがある
 去り際、貢は桃の分の伝票まで取ろうとしたので、慌てて止めた。

「あっ、結構ですよっ」

「いや、お前と見合いすることで、しばらくはうるさく言われないだろうから。

 こっちとしても助かるんで、奢らせてくれ。

 お前が見合いに乗り気じゃなくてよかった」
と言って、貢は去っていった。

 いや~、私も助かるんで。
 私が奢りたい気分だったんですけどね~。

 でも、もう奢る機会もないか、と桃は思った。

 歯医者にはもう行かないし。

 ショーのときも、向こうは客席にいるだけで、会うわけじゃないし。

 見合いで一緒に食事して、ちょっと話して終わりかな。

 そう、このときは思っていた。



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