箱崎桃にはヒミツがある
「そうですねー。
 行ってみてわかったんですけど。

 声出す仕事、向いてないみたいなんですよね~。

 声が高くて速いので。
 芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を朗読したとき。

 地獄のシーンは悪くないけど、あなたに天国は読ませられないわねって言われたんですよ。

 喋り方が地獄っぽいって」

「地獄っぽい喋りって、どんなのだ……」
と問われ、さあ? と桃は小首を傾げる。

 まあ、ともかく、アナウンサーにもナレーターにも向いていないのは確かなようだった。

 桃は、すぐに見つかったアクセント辞典を買い、ちょっと迷って貢のところに戻った。

「あの、さっき奢っていただいたので、今度、奢らせてください」

「いや、いい」
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